今回の写真展『アークと鶴と亀/The ARK, the CRANE & the TURTLE』は、レオ・ペレガッタの最新作である。「アーク」とは、英語では「Ark of the Covenant(契約の箱)」とも呼ばれ『旧約聖書』に記されている、十戒が刻まれた石板を収めた箱のことで聖櫃(せいひつ)と称されることもある。この「アーク」について、日本でひそやかに語り継がれている物語がある。
かつて、アッシリアが古代イスラエルを滅ぼす前のこと、当時の南北に分裂した古代イスラエルの十二支族のうち北の十支族が忽然と姿を消し、同時に神殿に置かれていたとされる契約の箱もその行方がわからなくなってしまった。以来、時代を越えてその行方を追って様々な憶測が交わされた。一説に、古代イスラエル王国の民が、密かに日本に持ち込んだのではないかと言われ、しかも、それは現在も四国・剱山のどこかに眠っている、というのだ。さらに、「かごめかごめ」のわらべうたは、失われたアークの出現を予言する歌だと推定する研究者たちもいる。
実際に、失われた十支族を調査する機関であるイスラエル国の国家機関アミシャーブや前イスラエル大使も、剱山の調査も行っている。日ユ同祖論はかなり昔からささやかれてきたものであるが、近年になって発掘された奈良時代の木簡には、ペルシャ人の役人が存在していたことを証明するものまで出現したこともあり、当時の渡来人が中国や朝鮮だけではなく、シルクロードの遥か彼方から日本に到来していたことも明らかになってきている。レオの写真展は、なぜ彼がこの物語を作品とする必要があったのか、それは彼自身がユダヤであることとも関係している。彼は、様々な縁に導かれ、今は日本に暮らしている。それは、あたかも国を失った古代イスラエルの民の記憶を辿るような旅路そのものである。「これはドキュメンタリーでもなく、歴史的民族学的な問題でもない。あくまで僕自身の根源《ルーツ》という個人的かつ普遍的な物語なんだ」そう彼はいう。
今回の展示では、フォトギャラリー・サイの2階部分を増設して初めての展示となる。
1階とほぼ同じ広さの板の間のギャラリースペースを駆使したレオの古代への眼差しを紡ぐ幽玄の世界。
ぜひお楽しみください。